Harada Masahiro Lab

原田真宏研究室ゼミ活動 「SYU-MAI」HP

第104回 「切羽詰まってる」

今回のテーマ「切羽詰まってる」

 

一等:林侑也

講評:平井悠大

 

  本年度第6回目。切羽詰まってる我々が行う切羽詰まってるシューマイ。

f:id:hmstudio:20180605144622j:plain

今回の作品には「切羽詰まってる」状態に対し、2つのアプローチがあったように思います。作品によっては1,2のアプローチの併用も見られます。

 

1:明示型

2:分解型

 

1:現実の状況における「切羽詰まってる」を1:1に近いスケールでとらえた空間表現。おおむね、視野が狭い状態と解釈し、発見的要素を空間にもたらすことで具現化させるもの。その際、通常の視線の外に仕掛けを置くことで、心身の動的可能性が制限されている状態を強調します。

2:「切羽詰まってる」を一連のプロセスに分解し、ある種スケールフリーな状態として示したもの。一例として階段状のオブジェクトに、個人の切羽詰まってる状態への対処とその行方を示したもの。ステップの違いや高低差は個人それぞれの経路と、結実する到達点の相違を表します。

 

今回一等の林君の「切羽詰まってる」を緊張状態と解釈した作品は1,2をふまえた上で、解釈と作品表現の間で螺旋のように一段上への昇華が評価されました。

f:id:hmstudio:20180605144704j:plain

 この作品では人々の異なる精神状態が示されています。切羽詰まっていない弛緩した平時の状態では、人々の注意は散漫で意識は様々に遊びます。その一方で、極度に追い込まれた状況で人は並ならぬ集中力のもと、時に高いパフォーマンスを発揮します。スポーツなどでゾーンへ入ったと言われる状態です。

 スラブを吊る糸は人の緊張状態を表しています。平時のスラブは弛緩した糸のもとグラグラと動き、高い可動域を有する一方で、不安定な状態と言えます。安定させるためにはスラブを下へ引き下げ、糸を緊張させピンと張る必要があります。

 別の解釈もこの模型にあります。ある事にとらわれ、頭から離れなくなるという状況です。四隅から出た糸が絡みつく姿は、すべての思念が一つのことに収束してゆくノイローゼのような「切羽詰まってる」状態を暗示しています。

 建築において絶対安定のものとしてのスラブは存在し、私達の身体的なの安定の拠り所であり、精神状態のメタファーとして明確です。そこに、糸が緊張するというモノとしての挙動の視点を上手く合わせたことで、作品に動きが生まれると共に、〈解釈、概念〉の抽象性と、〈素材、力学〉の具象性との間での往還が行われ豊かな作品になりました。

 

 次回のテーマは「梅雨前線」です。

 

参加者:平井、洪、味村、藤澤、林