Harada Masahiro Lab

原田真宏研究室ゼミ活動 「SYU-MAI」HP

121回「テレ触覚」

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フライヤー作成 : 小野

 令和2年度原田真宏研究室B4生によるSHU-MAI第2回(通算121回目)。前回では「スケール」の相対性について迫り,画面共有やアニメーション・ゲーム的体験などオンラインならではの表現方法を生かすなど主に「視覚」的な案が目立ちました。

建築物は二重のしかたで、使用することと鑑賞することとによって、受容される。あるいは触覚的ならびに視覚的に、といったほうがよいだろうか。

 ヴァルター・ベンヤミンは「複製技術時代の芸術」でこのように述べ,建築の「視覚的な受容」のみならず「触覚的な受容」のしかたに着目しました。続けてベンヤミンは映画と建築の両方を「触覚的な受容」という点で繋ぎ留めようとします。わたしたちがzoomを用いたオンラインでのSHU-MAIを行う時,各々のPCのスクリーンを見つめ続けなければなりません。これは映画の受容のしかたとほぼ近しいと言っても言い過ぎではないでしょう。

 そこで第2回のテーマは「テレ触覚」と設定しました。「触覚」という観点から建築を捉え直すこと。また,模型では比較的簡単に表現可能だったマテリアルの手触り,物質性をスクリーンで再現できるのか(もしくはナラデハの物質性?)という試みでもあります。第2回はすこし遠めに問いを投げかけました。

 

 

 

今回は最優秀案,優秀案の2つです。

 

最優秀の小竹案

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(以下,出案者による説明文)

抜け殻を見てどんな触感を感じるだろうか?パリパリという軽く脆い物質的な触感を感じる人、カサカサやフサフサという生物的な触感を感じ気持ち悪いと感じる人もいるだろう。そんな複数の触感を内包する抜け殻は「テレ触感」という距離感から新たな感覚が生まれる。

この空間では「木」を抜け殻化することによる水族館を提案する。木という形態を形骸化することなくコピーすることで抜け殻には森が宿り、対立的に扱われる森と海が同居する。木の持つゴツゴツ、ザラザラというマテリアルの中に水の流体的な触感が合わさり全く新しいテレ触感となる。

 

 

優秀案の藤田案

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(以下,出案者による説明文)

・テレ視覚=テレビ=「他人の見たものを知る」と解釈する要領で、テレ触覚を「他人の触れていたものを知る」と定義づけた
・提案としては、滞在時間が全く異なり会うことができないカップルのワンルームにおいて、触れていたものに自分の色がつくという機能を与えた

・色眼鏡や色ライトなどで、部屋に自分色のフィルターをかけると、補色の関係より、相手が触れていたものは黒く浮き出る。

・相手のいた痕跡から、なにをしていたかを想像することができ、会えなくても一緒にいるように感じられる空間はまさしくテレ触覚と呼べるのではないか

 

 

◯総評

 今回選ばれた2案はどちらもファンタジーな提案ですが,議論の幅を生んだという点で評価されました。両者とも「痕跡」という概念に触れているのが偶然であれ,興味深いです。

 最優秀の小竹案では,抜け殻をモチーフに硬いけど柔らかいといった触覚の二重性を見い出し,幻想的な水族館のドローイングが目を引きました。

 藤田案では,「触れたものの痕跡が」可視化されるという提案です。どこまで実現できるか疑問ですが,衛生的な観点からも考えられ射程がありました。

 

難しいテーマからか,スクリーンで表現できる手触り(物質性)の可能性に挑んだ,いわばメタな案はほとんどなく,反対に作品内の世界に閉じこもったようなファンタジーな案が多く見受けられました。しかし現実の状況を鑑みるに,避けてはいられず積極的に向かい合わなければならないでしょう。

 

 

出案者 : 上岡,滝本,波多,石田(堀越研),小竹(堀越研),藤田(郷田研)

文責 : 波多