Harada Masahiro Lab

原田真宏研究室ゼミ活動 「SYU-MAI」HP

122回「多重」

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フライヤー作成:波多

令和2年度原田真宏研究室B4生による

SHU-MAI 第3回(通算122回目)

 

 テーマ「テレ触覚」で行った前回SHU-MAIでは「感覚の語り尽くせなさ」に議論の焦点が当たり、侃々諤々の議論が繰り広げられた。

  触覚というのは感覚であるから、当然すべてを言語化することは不可能である。が、その「語り尽くせなさ」の所以とは何なのか?

  限られた時間の中でこの難題の答えを見つけるのは土台無理な話であるが、各自持ち寄った制作物を批評しあう中で前回最優秀案・小竹案に一応の着地点を見つけることができた。

  「感覚の語りつくせなさ」とは感覚の分節不可能性、唯名論的発想に近いとも言える「感覚の多重性」に由るのではないか。

  小竹案が示した「表面」は簡単には語りつくせない。木の表面形状、マテリアル、視覚から想起させられる触覚、脆弱性, etc.複数の要素が明確な境なく重なり、それらが1つの感覚として統合されている。この重なり=「多重」こそが「感覚の語りつくせなさ」の要因の1つなのではないか。と我々は前回、このように結論を出した。

 

 というわけで(?)今回は「多重」をテーマに各自作品を制作した。振り返りが少し長くなってしまったが以下に今回作品を掲載してゆく。今回は参加者が少なく票が割れたため4作品掲載する。順不同。発表順。

 

 

 

1.上岡案

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 多重
多くの重なり、違った多くの重なりで空間をつくった。
ティッシュの空間、ティッシュに埋め尽くされたこの空間は多くの重なりで形成される。

重なりが多いところは光を遮断し、明かりをつくるために重なりを取り払っていく。
重なりの薄いところは、気配を感じ、重なりの多いところは自分の温かみぬくもりを感じる。
寝っ転がるところに重なりを創り出し自分の体に合わせる。隠れたいときは自分も重なれるような空間。(埋もれたいときもあるだろう)
人によっていろんな重なりが生まれる。
時にそれは、ちぎられ、あるいは丸めれ、あるいは細長く遊ばれ、お花のような変な形にもなるかもしれない。そしてまた重ねられ続けていく。
そんないろんな重なり、が空間を創り出し空間は変わり続ける。
変わり続ける多重空間。
その重なりの向こう側にはまた違った重なり空間があるのかもしれない。

 

ー 出案者による作品解説

 

 2.小野案

 

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通常、重なりは宿命的に上下を生み、ヒエラルキーを生んでしまうが、今回はヒエラルキーなき多重を目指して形態を考えた。

 吊り構造を構造形式としたのは重力に抗うためである。ヒエラルキーのメタファとしてよく用いられる人間ピラミッドも重力があるからこそヒエラルキーのメタファ足りうる(下の人重そうだなあ、反対に上の人は楽ちんそうだなあ。という共感が前提にある)。吊り構造を採ることによって、通常の重力下でそうであるように「上のシェルが下のシェルに支持される」のではなく、「下のシェルが上のシェルによって支持される」というヒエラルキーの転倒を起こしている。

 

ー 出案者による作品解説

 

3.波多案

 

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 都市の空隙にはみ出した設備機器のコンポジションを鑑賞対象としたギャラリーの提案です。
1枚の巨大なガラス壁を挟み込むことによって光が反射し空隙に光が落とし込まれます。
ガラスは反射と透過の二重性を持ちます。昼は反射して片側(北面)の面を強く映し出し、夜はライティングすればもう一方の面の設備機器・配管がガラスケースに囲われた美術品のように照らし出されるでしょう。
このような時間経過(昼と夜の差)を断面として多重な像を結ぶ空隙の類型が有り得るのではないでしょうか。

 

ー 出案者による作品解説

 

 4.小竹案

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道に1本の白線を引く。すると子供たちが平均台のように使って遊びはじめる。つまり、この子供たちの目には道と公園が複層的な存在となって写っている。その目で街に出ると横断歩道は飛び石のように、白線の終わりは崖のように見えて街全体が大きな遊び場となる。
この提案は「始まりの白線」を引くような計画だ。
手法は単純でただ歩道橋をバラバラにしただけだ。都市空間を上る体験が単一な物から多重化した上り方へと変化する。それに伴ってこの場には複層的なイメージが浮かぶ。それは子供にとっては公園の遊具のように、サラリーマンにとっては公園のベンチのように、近隣住民にとっては庭のように、人、時間によって移り変わるイメージを具現化するような歩道橋となる。

 

 ー 出案者による作品解説

 

 次回は「密度」をテーマに開催します。

 

出案者:小野,上岡,小竹,波多,藤田

文責:小野