Harada Masahiro Lab

原田真宏研究室ゼミ活動 「SYU-MAI」HP

133回「ありえない世界で、ありそうな建築」

フライヤー制作:東尚生

 

【出展者一覧】
井筒悠斗|原田研究室B4
河本一樹|原田研究室B4
岩田理紗子|原田研究室B4
佐倉園実|原田研究室B4
川村寛樹|原田研究室B4
曾原翔太郎|原田研究室B4
東尚生|原田研究室B4
長谷川奈菜 | 原田研究室B4
加藤優作 | 猪熊研究室B4
有田俊介 | 猪熊研究室B4
波多剛広 | 原田研究室M2

 

コメンテーター:東龍太郎|原田研究室M2

【はじめに】

 建築学部原田研究室『SHU-MAI』は、原田研究室B4 生によって伝統的に開催される自主ゼミです。今回の「ありえない世界でありそうな建築」で通算 133 回目となりました。
 従来の SHU-MAI は、研究室内で完結する閉じたものとなっておりました。建築を学ぶ学生(とくに学部生)は、自己の作品が評価、議論される場が設計課題やコンペなどに限られています。そこで、今年度の SHU-MAI では、参加資格を学部生、院生、他大の学生に拡張し、さらに展示を行うことによってたくさんの目に触れることを期待することにしました。

 

【課題文】

 地震の絶えない国ニッポン。世界一海面の近い国ツバル。太陽の沈まない白夜が訪れる国フィンランド。水道も凍る都市ヤクーツク。世界を見渡してみると、まるでありえないような世界が数多く存在している。しかしながらこれらは、厳しい環境に対して対抗しながら自分たち独自の秩序を生み出し、人の営みを形成している。つまり、建築を考えるための手掛かりもまるで異なっているはずである。
 そこで、「今自分がいる世界に、ありえない一つの事象を与えてみる。」そのとき導かれる建築の形態、住まいの在り方はどんなものになるだろうか。
これは一種の思考実験である。自らの想像力を極限まで働かせ思考し、新しい世界を見せてもらいたい。

 

応募資格…所属大学や所属研究室、学年は問わない。
応募方法…原田研究室在籍以外の学生は、以下メールアドレスに応募する旨を伝えること。(担当者 dz19190@shibaura-it.ac.jp)
提出物…A3一枚以内。パース、ドローイング、模型、図面、ダイアグラム、説明文など、その設計意図・思考過程を表現するものを記載することが望ましい。

 

【作品紹介】*投票結果による上位三点のみ

 

最優秀賞

『永遠に夜の世界で』 岩田理紗子案

 太陽が昇るという概念の無い世界における住宅建築の提案である。アルミなどの反射素材による建築のファサードが、夜を映し夜に溶け込むような美的景観を形成し、その反射を受け止めたり、借景したりして、建築の形態として互いに呼応していくような街並みが計画された。
 現実の住宅建築においては、主に昼間の人の活動の場として建築が設えられることがほとんどであり、夜間には住まい手は内部で生活することが想定される。夜間における住宅の見え方は、多くの場合考慮されておらず、そこに違和感は無いようにも思える。
 しかし、岩田案ではこういった今までの慣習から脱した観点において、新しい建築を提示している。また、個人的な見解ではあるが、夜間に外で人のアクティビティが起こり、人の振る舞いが表出しているようなドローイングを見ると、夜を映し夜に溶け込むような美的景観の形成にとどまらず、都市や地区といった範囲で計画すれば現実で発生している人気の少ない夜間の危険性などの諸問題までも解決しうる都市計画の概念にまで拡張しうるかもしれない。

 

優秀賞

『小さくて大きい家』 川村寛樹案

 小人がいる世界における建築の概念の提案である。ここでは、誰もが知る前川國男邸の図面を、縮尺の分数を書き換えるという一つの操作のみで新たな発見を生むことはできないだろうか、ということが思考されている。
 芝浦工業大学建築学部SAコースでは、一年次に必ず全員が前川國男邸の図面のトレースを経験する。そのため、この作品を見た瞬間に、”S=1/100”という分数が頭に自然と浮かぶだろう。このスケールでこの図面を見ると、それは現実の人体スケールの「大きい」家である。しかし、この作品に最後まで目を通すと、“S=1/1”という分数が目に入る。このスケールで改めて図面を見返してみると、それは架空の小人スケールの「小さい」家に変わってしまうのだ。これは、中山英之の言う「小さくて大きいこと」(※1)に起因する概念であり、スケールのみを書き換えることは極限まで少ない操作で、建築の見え方を拡張することができるということを川村案では提言されたのではないだろうか。


※1 現代建築コンセプトシリーズ25『中山英之 | 1/1000000000』参照。中山英之は、建築の世界でのスケールを「魔法の分数」と呼び、この分数を唱えることで、私たちはいろいろな大きさの世界を頭のなかで自由に行き来することができると言われている。

 

優秀賞

『「時間」の概念が無い世界』 東尚生案

 「時間」の概念が無い世界における建築の在り方の提案である。この世界の建築の一例として砂丘の上にまたがる展望デッキが計画された。ここでは、地平線いっぱいに広がる砂、風が砂を巻き上げ、地表面のレベルは一定に保たれることはなく、デッキスラブと地表面の間には天井高が常に変化し続ける空間が生まれ、人は砂丘の特性によって規定された「場」を選択して過ごす在り方が考えられた。
 これは、時代が進んでテクノロジーが発達していくなかで、なんでもどこでもできるようになってきた現代において、「場」の重要性が失われつつあることへの批判精神から生まれたものである。しかしながら、「刻一刻と」という時間表現の語彙を用いていることや、時間によって空間が定義づけられてしまう「砂丘」という敷地を選定していることなどが議論の中で指摘された。これはもしかすると、結局人は「時間」から脱することはできない、「時間」の中でしか生きることはできないというアイロニーをこの作品は孕んでいるのかもしれない、と感じた。

 

【総評】

  まず今回は、他研究室や修士からの参加もあり、ヨコとタテの広がりをもったものとなりました。これは、研究室内にとどまらず議論の輪をさらに広げていこうという今年度のSHU-MAIにとっては着実に有意義なものとなっていると感じた。
 また、今回のコンペでは、現実世界に当然のように蔓延る事象を覆してみることで、建築の捉え方や枠組みを拡張することが図られた。建築の足掛かりが全くない状態から、各々の頭の中で世界を構築し、設計の手掛かりを掴んでいくという大変難しいテーマだったにも関わらず、熟考されたものを見ることができた。

 

文責:SHU-MAI係 東尚生

 

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