Harada Masahiro Lab

原田真宏研究室ゼミ活動 「SYU-MAI」HP

第152回「性」

2024年度 原田研究室「SHU-MAI文庫」

第5回『性』が5/24に開催されました。

第5回フライヤー|デザイン, 出題 : 栗林亜佐子
課題文; 

性について考える。それはどうやって自分が生きていくかとか、他人をどう大切にしていくかを考えること。人や社会を考える建築家。人が生きる上で欠かせない根源的な「性」の話題を語らずして知らずして人のための建築はつくれるのか。

補足文1; 

「性」という言葉を聞いて何を思い浮かべるか。保健体育の授業で習った生物学的なことか、はたまたエロか。「性」とはただ単に生殖や身体的なことにとどまらず精神的、心理的、社会的、経済的、文化的、政治的など人間のあらゆる側面に深く通じるものである。もちろん建築や都市にも深く関係している。たとえば、私が建築にまつわる「性」を考えた時、未だに続く家父長制の社会で健常な男性の経済的活動や身体、ヘテロセクシュアルな家族観を標準としてデザインされた公共空間、建築に疑問を持つ。あなたの中の「性」にまつわる疑問、好奇心、気づきを自由に表現せよ。

補足文2; 

人にとって身体的にも、社会的にも非常に重要なファクターである「性」。体の構造から社会で男として生きるのか女として生きるのかそれ以外で生きるのかで見える景色や体験することまで大きく異なる。にもかかわらず「性」について学校で十分に教わることもなく十分に語られることなくタブーとされている。今一度「性」と向き合い、学ぶ時だ!

 

※ SHU-MAI文庫についての概要と要項は下記の「SHU-MAI文庫」を参照ください。

 

目次

 

***

 

|前回はこちら → SHU-MAI文庫 第4回『文華』

 

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SHU-MAI文庫 第5回『性』

今回は栗林亜佐子による『性』についての出題でした。非常にデリケートな問題として議論を避けられることも多くあるジェンダー / セックスについてのテーマでした。世の中の風潮に臆せず意義を唱え、このような議論の場に繊細な問題を投げ込めるところが、フェミニストを自称している彼女の勇敢なところです。狙い通り、普段は少し躊躇するような議題でありながら、各々の意見をぶつけ合う対話の場を生むことに成功しました。

学部3年生は締め切り直前ということもあり、普段会場に利用している本部棟9階ラウンジも模型作業で賑わっておりました。そのため、いつもより小さな机を並べながら、しっぽりと開催されました。しかしそんな雰囲気とは裏腹に、センシティブとも取れるキーワードも飛び出し、我々には気づけなかったもののラウンジには絶妙な空気感が流れていたことでしょう。それもまた、出題者の狙いの1つだったのかもしれません。

今回で折り返しを迎えた2024年度原田研究室SHU-MAI「SHU-MAI文庫」では、引き続き「波及されていく開かれた議論の場」を目指し、今後も活動してまいります。ぜひ皆さんの参加と見学をお待ちしております。

※大学からの見学希望については、原田研究室Instagramか原田研究室B4への直接の連絡をお願いいたします。

全体の風景|撮影; 半田洋久

第5回参加者

原田研究室生
  • 大池智美(代読による参加)
  • 細田雅人(SHU-MAI係)
  • 田川歩知
  • 廣澤陸
  • 半田洋久(SHU-MAI係)
  • 栗林亜佐子
  • 森日菜子
  • 鈴木創
外部参加者
  • なし

 

各参加者成果物

賞一覧

※ 議論の焦点をより明確にするために、部分的にコンペ形式を導入しております。

・SHU-MAI賞 1点

・出題者賞 1点

・議論賞 1点

 

1. 栗林案「境界線を考える」

栗林案|撮影 : 半田洋久

選定図書
タイトル; タイトル; フェミニスト・シティ
著者; レスリー・カーン

要旨; 
男女二元論や公私二元論、大きくふたつに分断し性格づけることに疑問を覚える。現在あるこの枠組みを崩す手法を考えたが、分割を増やしてもまた排除されるものが出てくるなどの葛藤の結果内部が空っぽになった。

出題者によるフィードバック; 
出題者につき無し

2. 田川案「男女の階」

田川案|撮影 : 半田洋久

選定図書
タイトル; 東京の階段
著者; 松本泰生

要旨; 
神社の参道によくみられる男坂、女坂。対を成す二つの坂の由来と性質を読み解き、現在の風景と照らし合わせることで、二つの坂の文化、流行、歴史、あり方を再考し、きざはしを架け渡す。

出題者によるフィードバック; 
男らしさ女らしさの規定を前提に男坂と女坂と名付けられた坂にそれぞれ女性が男坂に、男性がを女坂にいる様子を日常の切り取りとして描くことで、その名付けを無効化していた。水彩を使った美しい絵というかたちの表現もとても素敵だった。

3. 半田案「姿見のある個室トイレ」

半田案|撮影:半田洋久

選定図書
タイトル; 差別は思いやりでは解決しない ジェンダーやLGBTQから考える
著者; 神谷悠

要旨; 
無意識的差別の必然性を自覚するところから始めるための内省としての提案。水洗い場を1つ内包させたトイレの扉を外開きとし、内仕上げを鏡張りにする。用を足す自分の姿が見えてしまう扉は、姿見としても機能する。

出題者によるフィードバック; 
無意識的な差別をしてしまうという可能性を誰しも持っているという事実を自覚して内省的になるための扉の内側を鏡貼りとしたトイレの提案。無意識的な差別をしてしまう可能性があることや自らの特権性に自覚的であるというのはインターセクショナル・フェミニズムの重要なエッセンスであり、共感した作品であった。

(SHU-MAI賞受賞作品)

4. 鈴木案「私の内的世界」

鈴木案|撮影 : 半田洋久

選定図書
タイトル; イメージ:視覚とメディア
著者; ジョン・バージャー

要旨; 
狩猟生活時代に起因する男性と女性の社会的存在は趣を異にしている。目に見えてこないために肉体的な発散物だけと思われがちな女性その人個人に特有の「内的世界」は、線的で狭小のキッチンを解体する中で表れ、何かを区別することすら難しくする。

出題者によるフィードバック; 
キッチンという女性の領域とされている空間を屋外と室内に分散させることで、その私的空間に押し込められて透明化されてきたケア労働が公的空間から可視化される点がとても良かった。また分散させたことで1人でやるより複数人で作業した方が効率が良くなっているという指摘も討論内であり、相互のケア関係が築かれる可能性を感じた。既成の境界の切り崩しが現実的な建築操作により巧みに行われていたため出題者賞として選出した。

(出題者賞受賞作品)

5. 廣澤案「犯されることの無い小さな自己主張」

廣澤案|撮影 : 半田洋久

選定図書
タイトル; 建築-雌の視覚
著者; 長谷川堯

要旨; 
社会という荒波に飲まれながらも決して犯されることの無い自己をうちに秘める守る防御の姿勢。手首や足元、自分が思いを込め着飾った姿が断片的に映る。そんな小さな自己主張を拾うような扉。

出題者によるフィードバック; 
男女というような大きな枠組みでまとめられてしまう社会で、自室の扉を部分的に鏡にし、自分の姿を写しだすことで自分は自分という様に鼓舞できる新しい扉の提案であった。ある部分は向こう側が見えてある部分は内側を映し出している様子が面白く、コンセプトにもとても共感できる作品であった。一方でプレゼン部分のトランスジェンダーの差別に利用される当事者の実態を無視した根拠のない言説が意外と身近でも支持されているのがショックではあった。

6. 大池案「Gendered Furniture」

大池案|撮影 : 半田洋久

選定図書
タイトル; 現代建築批評の方法─身体/ジェンダー/建築
著者; 10+1

要旨; 
男性、女性の平均値に基づいてそれぞれが使いやすい寸法の什器を設計した。性差による比較を行うことで、男性基準に合わせて計画された都市に対する女性の生きづらさを身近な例を挙げて可視化した。

出題者によるフィードバック; 
健康な成人男性を基準に作られたものが多数存在する中で、"男女"の平均身長をそれぞれ基準にしたイスを模型として示すことには意義があったと感じる。討論の中で「これは女性の超主観的で"私たちの寸法も作れよ"という思想」という批判もあったがその発言自体が男女の非対称性やマジョリティのアイデンティティが持つ特権性を浮き彫りにしていたのではないか。

7. 森案「生きとし生けるもの」

森案|撮影 : 半田洋久

選定図書
タイトル; 金子みすゞ名詩集
著者; 金子みすゞ

要旨; 
ふとした時に押し付けられた価値観への戸惑いややり場のない気持ち、自分への疑いを持つ。そんな心情を彼女の詩を通して情景描写。普段は模型化するところ、花を人や建築物、又はその集団性などに見立て世界を作った。

出題者によるフィードバック; 
性に関係するところを起点として生まれる多様な感情をもつ人の世界を生け花という手法で表現した作品。ただ生け花とするのではなく下のスポンジ部分を歩くような体験ができるある種の建築であったのがとても良かった。俯瞰からの見え方と覗き込んだ時の見え方のギャップも面白かった。

8. 細田案「あっちの世界」

細田案|撮影 : 半田洋久

選定図書
タイトル; 『消滅世界』
著者; 村田沙耶香

要旨; 
本来は個として様々に存在するはずの性を、「性別」として社会的に位置付けようとする風潮に疑問を抱いた。境界を増やさず曖昧にしていくべきではないか。私たちが『あっちの世界』へ行くための試みとして提案する。

出題者によるフィードバック; 
本来複雑で混沌としている性や世というものを性別や社会というかたちで単純化することによって衝突が生まれているという考察に共感した。そこから部屋名という区分けをするのすらバカバカしくなるという操作は境界そのものへの問いかけとなっていると共に成果物としてもとても面白い表現となっており魅力的だった。しかし名付けや属性による区分けが不要になるとしたら構造的な不平等が解消されてからになるのでその点には留意したい。

(議論賞受賞作品)

発表と質疑の様子

撮影:半田洋久

出題者総評

性という普段あまり意識的に触れることがあまりなく、かつ広いテーマだったにも関わらず建築としっかりと結びついた提案をしてくれた皆さんに尊敬の意を示したい。特に田川案、鈴木案、細田案は性においてキーワードだと考えている"境界線"へのアプローチをそれぞれ別の方法で巧みに行っていたため高く評価したい。
最初はどうしても対立してしまう部分もでてくるかなと思い少し不安があったが、対話を重ねていく中でそれぞれの世界の見え方、考え方を聞き、知ることで価値観のアップデートができ、心の距離も近くなったのではないかと思う。避けられがちな性という人間にとって重要なテーマについて深く対話することができて嬉しく思う。今後もリスペクトと対話を忘れずにみんなと切磋琢磨していきたいです!

文章 : 栗林亜佐子

次回のテーマ

第6回テーマ :『重心』

第6回フライヤー|デザイン, 出題 : 廣澤陸
課題文; 

自分はどこに重きを置いて生きているのか考えたことはありますか。それは各々の価値観によって大きく異なるでしょう。外的成功のみが叶った世界線、内的成功のみが叶った世界線、それぞれの人生を送ったときの自身の終末の場を提案してください。

補足文1; 

現代の社会は基本的に資本主義的考え方を前提として回っており、価値のあるなしはすべて市場経済において利益があるかないかで判断されています。会社の成功は株主を儲けさせることであり社会的意義は二の次とされてきました。しかし、今利益を減らしてでも社会的意義を求めるような企業が世界中で台頭しつつあり、当たり前とされていた価値観が大きく変わりつつあるのです。そんな時代だからこそ自分が追い求めるものはなんなのか、履歴書で書けるような実績を残すことなのかそれとも弔辞で読まれるような自分が死んだとき周りの人間の心に残る利益では測れないものなのか、どこに人生における重心を置いて生きているのか自分の立ち位置を示してほしいと思います。

補足文2; 

どこに重きを置いているのか、人生における重心の位置はどこであるのか。

自分が理想とする実績(履歴書)と弔辞、対極にあるその二つをそれぞれ書きだしてみるのも何か手掛かりになるかもしれません。

あなたの重心の位置は。

 

詳細

|日程・・・・5/31 (金)
|時間・・・・18:00~21:00 (予定) (変更しました、こちらの情報が正しいです。)
|場所・・・・豊洲キャンパス 本部棟9階 ラウンジ
|成果物・・・選書1冊, 任意の表現物
|参加資格・・芝浦工業大学の学生であること
|展示場所・・豊洲キャンパス 本部棟9階 原田研究室ブース 可動棚(画像参照)

内部展開催場所
注意事項

※ SHU-MAI文庫の要項については「SHU-MAI文庫解説」をご覧ください。
※ SHU-MAIはどなたもご自由に見学いただけます。所定の時間と場所にて、メンバーにお声がけください。
※ 詳しくは、展示場所にもなっている原田研究室ブースの可動棚に置かれたフライヤーをご覧ください。どなたもご自由にお取りいただけます。
※ 不明点がありましたら、原田研究室InstagramのDM、または原田研究室生B4に直接ご連絡ください。

 

皆様の参加と積極的な議論と表現をメンバー一同お待ちしております。

 

原田研究室 Instagramhttps://www.instagram.com/harada.lab/

 

外部展 詳細

次回のSHU-MAI文庫アーカイブ記事にて、SHU-MAI文庫外部展のイベント概要を公開させていただきます。多様な展示だけでなく、参加型企画も用意しております。ぜひお楽しみに!

展示期間内は「SHU-MAI文庫」メンバーが在廊し、イベントなども計画しております。

|会期・・・7/2 (火) ~ 7/4 (木)
|時間・・・9:00 ~ 17:00
|場所・・・芝浦工業大学 豊洲キャンパス 有元史郎記念交流プラザ
|入場料・・無料

 

|SHU-MAI文庫 第6回『重心』はこちら → https://hmstudio.hatenablog.com/entry/2024/06/03/194649

執筆 : 半田洋久