Harada Masahiro Lab

原田真宏研究室ゼミ活動 「SYU-MAI」HP

第155回「訴求」

2024年度 原田研究室「SHU-MAI文庫」

第7回『訴求』が6/25に開催されました。

第8回フライヤー|デザイン, 出題 : 森日菜子
課題文; 

主に広告やマーケティングの分野において、情報を伝達するだけでなく、受け手に何らかの行動を起こさせるといった意味で用いられる「訴求」。

論理的な説明から感情的な訴えまで手法は多岐にわたるが、人を突き動かすものは一体何なのか。

補足文1; 

売り込む対象も商品から人まで、実に多種多様である。普段私達が手にする商品のパッケージでは消費者にPRできるのは4~5秒と言われているため、短時間で明確に情報を伝え、消費者の購買行動を促すものが求められる。一方で推し活やホスト・ホステス業界は今回だけでなく次回、そしてその先もサービスを利用したいと思わせるものが残っていく。スピード感のある訴求力を持つパッケージデザイン、長期継続的な訴求力の高さがある推し活やホスト・ホステス業界、これらに共通項はあるのか。

補足文2; 

日常生活では受け手の場合が多いが、社会に出た際には促す側に立つことも考えられる。自分が手にしたものの決め手は何だったのか、それは無意識のうちに作用していたか、内在的な購買意欲を呼び起こしたのかなど、改めて見つめ直す。

 

※ SHU-MAI文庫についての概要と要項は下記の「SHU-MAI文庫」を参照ください。

 

目次

 

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|前回はこちら → SHU-MAI文庫 第7回『共用製図室から考えるコモンズ』

 

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SHU-MAI文庫 第8回『訴求』

今回は半田洋久による『訴求』についての出題でした。

私の実感では、今回最も難しいテーマだったと言えるでしょう。僕が実際に取り組むにあたっても、また周りのメンバーを見ていてそう感じました。その理由として考えられるのは、出題文の中に建築の言語どころか、建築にまつわる話すら1つもないのです。しかし、建築学科での議論なので、建築の議論を目指さなくてはなりません。この過程で、各メンバーは非常に苦労したのではないかと思います。

今回のような建築以外についてのテーマが出題されることは、全9回やるSHU-MAI文庫として非常に価値あることです。このような出題や議論が、SHU-MAI文庫全体としてどのように還元されるのかという点について、今後各々がフィードバックしていく中で、今回の出題の真の意味が見出されていくのではないでしょうか。

さて、SHU-MAI文庫展『開架』を目前に、学内参加に限定しては最後の出題となりました。これまでに出されたものを通して、現在SHU-MAI文庫展に向けてメンバー一同必死に準備している最中です。ぜひ、SHU-MAI文庫展『開架』では、これまでの軌跡についてご覧いただけたら、全7回のアーカイブをまとめた甲斐があったということになります。ぜひ最後までよろしくお願いいたします。

全体の風景|撮影; 半田洋久

第7回参加者

原田研究室生
  • 大池智美
  • 末松拓海(ゼミ長)
  • 細田雅人(SHU-MAI係)
  • 田川歩知
  • 半田洋久(SHU-MAI係)
  • 栗林亜佐子
  • 森日菜子
  • 鈴木創
外部参加者

なし

各参加者成果物

賞一覧

※ 議論の焦点をより明確にするために、部分的にコンペ形式を導入しております。

・SHU-MAI賞 1点

・出題者賞 1点

・議論賞 1点

 

1. 栗林案「人間性への訴求」

栗林案|撮影 : 半田洋久

選定図書
タイトル; 善と悪の生物学
著者; ロバート・M・サポルスキー

要旨; 
8ヶ月近く訴求しているが届いている気がしない。最終的には個々人が変わらず行動しないことを正当化せず、無関心の壁を勇気を持って超えることに希望を持つしかない。QRコードをスキャンするだけだよ。

出題者によるフィードバック; 
8ヶ月間彼女がしてきたGazaに関する活動は、誰かからの助けを求める声が彼らのために何かできないかと彼女を動かした。ここに一つの訴求が完成していた。続いて彼女から発信する訴求が始まった。しかしながら遠く離れた日本において自分事として捉えることのできる人は少なく、周知させるのは困難を極め、今は関心を持ってもらうため様々なアプローチを模索しているようだ。是非、受取手にアクションを返そうと思わせる策を見つけ活用し、より多くの人に彼女たちの活動が伝播していくことを願う。

 

2. 末松案「G chair」

末松案|撮影 : 半田洋久

選定図書
タイトル; ぼんやり空でも眺めてみよう
著者; 竹山聖

要旨; 
現代の家具の合理化された組み立てるという行為に愛着を見出し、shopbotという機械による加工と、研磨や塗装といった手作業のバランスを意識して制作した椅子。

出題者によるフィードバック; 
竹山聖のつくる建築と話から人を引き付ける何かを見つけたようだ。この部分の言語化をもう少し詳しく知るには彼が選書した本を読む必要があるのかもしれない。成果物である彼の椅子は木組みパズルに似た、部品をはめたくなる要素を含んでいた。また運搬のために分けられた小さなパーツの組み立てではなく愛着を持つための組み立てとしたいという言葉は共感を持った。工業化により忘れられた感覚なのかもしれない。

(出題者賞受賞作品)

3. 細田案「ON In ON」

細田案|撮影 : 半田洋久

選定図書
タイトル; 戦争とデザイン
著者; 松田行正

要旨; 
この壁面に施されたデザインは、誰かが剥がして消えてしまう。消えた痕跡さえもさらに剥がされて消えてゆく。広告として商品化された今日のパブリックな壁は、人との身体的な関係を取り戻す。

出題者によるフィードバック; 
時間の蓄積がされる従来の壁は上に重ねてられていくが、この提案ではその逆の“削る”を行われる。ポリエチレン製のフィルムには人々に痕跡を残させようという狙いがあるようだ。小さな破壊衝動を許容するこの提案は、子供の頃に好奇心で障子に穴をあけたことを思い起こさせるような体験を公共の場で他人と共有するという斬新な提案であった。実際に設置し経過を見てみたい。

4. 半田案「ストーリーテラー

半田案|撮影 : 半田洋久

選定図書
タイトル; ストーリーが世界を滅ぼす 物語があなたの脳を操作する
著者; ジョナサン・ゴッドシャル

要旨; 
作品に付与するテキストの扱いに自覚的になるための実験。物語の危険性を理解し、ナラティブ、ストーリーテリング、最小文によって作品を説明し直す。

出題者によるフィードバック;
本の中にも「空気のように実体のない言葉を使って、他人を動かし、世界を自分に都合よく再構成する。」と書かれており、物語は半ば強引にでも人を引き込むことのできるものである。設計課題においてある手法・行動の合理性を示すために物語を作っていた。一方、実際の設計・計画をする場合、これでは罷り通らないのではと私は考える。しかし関わるプロジェクトの方向性によっては相性が良いのかもしれないので直接的な建築的思考またはアーカイブへ使い方を見たい。

(議論賞受賞作品)

5. 大池案「合わせ鏡の喫煙所」

大池案|撮影 : 半田洋久

選定図書
タイトル; 仕掛学
著者; 松村真宏

要旨; 
入り口から見える灰皿の虚像によって、喫煙者を喫煙所へと誘い込む仕掛けを施した。それは結果的に喫煙所のはみ出しを防止できるのではないだろうか。

出題者によるフィードバック; 
喫煙所に仕掛けを設け、喫煙所の外で吸う人が中に入ることを促していた。外で吸う人の目的が灰皿の有無か、吸う行為そのものなのか。場合によっては中へ誘導することは難しいのではという意見があった一方で、喫煙所を知らずにふと鏡の反射越しに灰皿を見つけたら入り吸いたくなるかもという意見もあり、思い起こさせる作用がある部分がこの仕掛けの魅力なのではないかと考える。

6. 田川案「防犯ミラー」

田川案|撮影 : 半田洋久

選定図書
タイトル; 空間管理社会-監視と自由のパラドックス
著者; 阿部 潔/成実 弘至 編

要旨; 
しないことをアフォードする反アフォーダンスを訴求重ね、目下の問題であるSHU-MAI文庫展での本の盗難問題に対して解決策を投じた。監視における見張り、禁止、未然の観点と鏡における心理的効用に着目し監視カメラではなく広域を肉眼で捉えられるカーブミラーを空間に配置する案である。

出題者によるフィードバック; 
まず今度の展示会における展示物盗難防止のための策の提案が生まれるとは予想だにしなかった。鏡による可視領域の拡大と警戒中という言葉の犯罪抑止効果により防犯の役割を果たしている。また昨今SNSでは鏡の前で写真を取ることが流行っている。つまり鏡自体も写真をとる行為を起こさせ、展示会における一つの企画になることが予想される。
1つのマテリアルで一方では抑止、もう一方では促進をしているという二面性を持ち合わせた秀逸な提案であった。
来場者は誰かの視線を感じつつ、いつの間にかカメラやスマホを向けているに違いない。

(SHU-MAI賞受賞作品)

7. 鈴木案「奇妙なもの」

鈴木案|撮影 : 半田洋久

選定図書
タイトル; 遥かなる他者のためのデザイン
著者; 久保田晃

要旨; 
三角。四角。円。慣れ親しんだ形を合成した立体が奇妙な立面をつくりだす。建築を見る主体は、立面の図形を仮構する補助線を引き延ばし各人各様の内部イメージをつくるだろう。私たちに豊かな生活をもたらす驚きや新鮮さは、慣れ親しんだものを奇妙なものにしていくプロセスの中で生まれるのではないだろうか。

出題者によるフィードバック; 
人は現在(ファミリアなもの)よりも未来(ストレンジなもの)に興味を持つという視点から立面、断面を使った空間想像をさせる提案。実際の建築における外観と内部空間の違いを生むことは割と可能だと思うが、これほど単純明快な形で複雑な空間が出来ると建築に興味を持たない人も外観から想像される内観と実際の内観のギャップから更に空間を思考するようになるかもしれない。

8. 森案「ミカタが変わるユーモア」

森案|撮影 : 半田洋久

選定図書 
タイトル; チャップリンヒトラー
著者; 大野裕之

要旨; 

キャラクター・イメージを全世界に行き渡らせたメディアの王様チャップリンとイメージを武器にメディアを駆使して権力の座についたヒトラー

情勢が不安定だった当時、人々は未来やこれからを指し示してくれる人を求め、彼らは支持された。しかしながらより多くの人の支持と後世に残るイメージ対決において勝利したのはチャップリンであり、人々を笑わせたことで共感の獲得と強い思想にベールをかけることに成功していると考える。これは建築においても同じであり、ユーモアという武器で今後発生する問題を解決するきっかけや時代を越えた先でも支持されるものをつくれるのではないか。

 

出題者によるフィードバック;
出題者につき無し

 

発表と質疑の様子

撮影:細田雅人

出題者総評

訴求というプロのデザイナーたちの頭を悩ますテーマでありながら建築へ結びつけようとしてくださった同研究室の仲間には感謝を伝えたい。
建築学部を卒業する私たちはこの先どの道に行くにしろ、何かをつくる側に立つことが考えられる。建築やプロダクトは使う人がいない限り成立しない。自分が作りたい世界観を大きな声で言ったところで耳を傾けてくれる人、共感してくれる人、共に行動を起こそうとする人などがいないとそれはただの“独り言”となる。そのためには人としてある程度の訴求力が必要なのではないか。では訴求するには何が必要か。そんな疑問から今回SHU-MAIにて取り扱うことを決めた。成果物は多種多様となり、形骸化に至らずとも建築的思考への発展が感じられるものが揃った。訴求による特性なのか、提案による強制力は全体的にあまり強くないように感じた。今回仲間からもらった案をもとにこれからも人を突き動かすものは一体何なのか、模索していきたいと思う。
私たち原田研18期生のSHU-MAIも残すところ、最終回「退廃のすゝめ」のみ。
次回はSHU-MAI展の最終日7月4日に展示会場にて私たちの議論をご覧いただけます。
原田研B4一同、会場にお越しいただけるのをお待ちしております。

文章 : 森日菜子

次回のライブSHU-MAI文庫のテーマ

第9回テーマ :『退廃のすゝめ』

第9回フライヤー|デザイン, 出題 : 末松拓海
課題文; 

建築が作りだす人々の営みについて、建築家なら誰しもが考えることでしょう。ですがその先はどうでしょうか。人がいなくなっても建築は残り続けてしまいます。そこであなたが考える理想の建築の死に方。退廃のすゝめを教えてください。

補足文1; 

人類は廃墟を必要とする。もし都市が簡単に造り変えることができるのであれば、都市建設に関して誰も強い責任を感じなくなるであろう。鉄筋コンクリートのような改築がきわめてむずかしい、不変の素材であって、はじめて人々は都市の建設に百年の計を盛り込もうとする。その中にこそ人類建設の夢がある。しかし、一国の文明に消長がある限り、その都市もいつかは無用の長物-遺跡と化し、やがて廃墟となる時が来る。(新建築1959 晴海高層アパート-将来への遺跡 より一部抜粋)

廃墟は異界との境界であり、荒廃した羅城門には鬼が住み、堕落した大寺には天狗も巣くった。人間の代わりに誰かが住まう。廃墟にはそんなイメージがつきまとう。(廃墟展-金沢文庫 より一部テキスト)

補足文2; 

出題には「理想の建築の死に方」と書きましたが、難しく考える必要はないでしょう。なぜな
ら設計という上り坂と、退廃という下り坂は同じ道なのです。人それぞれ大切にしていること、例えば全体性、エレメント、地域性、芸術性、文化的な価値、動植物、などが尊重されるべきです。むしろ設計行為よりも現実の呪縛から解放されて、足も軽いかもしれません。

 

詳細

|日程・・・・7/4 (木)
|時間・・・・13:00 ~ 16:00(予定)
|場所・・・・芝浦工業大学 豊洲キャンパス 有元史郎記念交流プラザ
|成果物・・・選書1冊, 任意の表現物
|参加費・・・無料
|参加資格・・不問
※ライブSHU-MAI中でも展示の見学はご自由にしていただけますので、お気軽にご来場ください。

 

※殴り込み可能ですが、人数把握のために、Google Fromによる参加申請の協力をお願いいたします。

⏬⏬ 参加フォームはこちら ⏬⏬

https://docs.google.com/forms/d/1lq2UC8Au7cYQWyBXOAPxnxp596ckObNrMWQn80MGvkA/viewform?pli=1&pli=1&edit_requested=true

 

 

フライヤー配布場所
注意事項

※ SHU-MAI文庫の要項については「SHU-MAI文庫解説」をご覧ください。
※ SHU-MAIはどなたもご自由に見学いただけます。所定の時間と場所にて、メンバーにお声がけください。
※ 詳しくは、展示場所にもなっている原田研究室ブースの可動棚に置かれたフライヤーをご覧ください。どなたもご自由にお取りいただけます。
※ 不明点がありましたら、原田研究室InstagramのDM、または原田研究室生B4に直接ご連絡ください。

 

皆様の参加と積極的な議論と表現をメンバー一同お待ちしております。

 

原田研究室 Instagramhttps://www.instagram.com/harada.lab/

原田研究室 X:https://x.com/hmstudio_sit

※ 原田研究室公式Xを開設しました。SHU-MAI文庫展に向けて毎日ポストしていきますので、ぜひフォローお願いいたします。

 

SHU-MAI文庫展『開架』 詳細

展示期間内は「SHU-MAI文庫」メンバーが在廊し、イベントなども計画しております。
詳細は下記のリンクにてご確認ください。

 

|会期・・・7/2 (火) ~ 7/4 (木)
|時間・・・9:00 ~ 17:00
|場所・・・芝浦工業大学 豊洲キャンパス 有元史郎記念交流プラザ
|入場料・・無料

 

hmstudio.hatenablog.com

 

|SHU-MAI文庫 第9回『退廃のすゝめ』はこちら → https://hmstudio.hatenablog.com/entry/2024/08/31/213931

執筆 : 半田洋久