Harada Masahiro Lab

原田真宏研究室ゼミ活動 「SYU-MAI」HP

132回「世界最小の論考コンペ」

 

フライヤー制作:河本一樹

【出展者一覧】
井筒悠斗|原田研究室B4
河本一樹|原田研究室B4
岩田理紗子|原田研究室B4
佐倉園実|原田研究室B4
川村寛樹|原田研究室B4
曾原翔太郎|原田研究室B4
東尚生|原田研究室B4
長谷川奈菜|原田研究室B4
末松拓海|芝浦工業大学建築学部B2
半田洋久|芝浦工業大学建築学部B2

 

コメンテーター|有田俊介|芝浦工業大学建築学部B4

 

 

【課題文】
 あなたにとっての建築を一文字で表してください。その一文字を選んだ説明や、模型で空間を表現するなどで可能ですが、必ず一文字を提出すること。


「あなたにとっての”建築”を一文字で表してください。」というコンペである。
一文字から考える。または、カタチを作ってから考えるという双方からインプット・アウトプットすることができる課題であった。シンプルながらにすごく難しい課題であったのではないかと思われる。一人一人の建築観を語り合うことができる課題であった。

 

応募資格 所属研究室や学年は問わない
出題期間 1週間
狙い 建築観の共有や議論、言語を空間化する。
提出物 フォーマット用紙に一文字を記入したもの、レタリングやフォント、大きさなど指定はない。補足の説明文は所定の範囲内に収めること。模型表現は 15×15×15cm 以内に収めること。

 

賞 最優秀賞 1 点 優秀賞 2 点

 


結果発表
1位「移」 東 尚生
2位「æ」 河本 一樹
3位「ケ」 井筒 悠斗

 

【最優秀賞】『移』


 建築において”移”ことはその語彙の意味からして、新陳代謝による更新性と不確定な時間の流れの中で生まれる潜在的な魅力を内包している。
”移”をシャボン玉でスタディし、境界の曖昧さ、周辺の写し込み、光の屈折による色の変化が時間変化と共に刻一刻と変化し、決して留まることがないということを表現している。

 

曾原「なぜ平面で?」
東「模型は無くなった。建築における新陳代謝を表現しているためこの時点で模型は存在していない。」
川村「3Dのスケッチのよう。あそび線のような潜在的な魅力を見つける方法としてシャボン玉を使うのはすごく面白いと思った。」
曾原「その場で実演すればよかった?」
東「規定違反かな?」
有田「泡は縦横無尽に自由に動いているイメージがあるがこの作品はその場に固定されある種移ろいを制限されているように見えるが、それは少しは秩序が必要であると考えているからなのか?」
東「曖昧さと必然性の両立を考えていて予測せずに大きさが変わり破裂するなど、本当は自然法則の中で起こっていること必然的なんだけど人はそれを予測できない魅力がある。」
岩田「長い時間をキュッと縮めた感じが面白い。移ろうは理想なのか?」
東「理想でもあるし、変わっていくこと自体が建築の魅力である。」

((((ここに脚注を書きます))))

シャボン玉という新しい材でスタディしているところが斬新だと思った。斬新でありながら東くん自身の建築観がうまく表現できており、一文字と写真がお互いに理解を深めるツールになっていた。彼は時間の流れの中で新陳代謝による滞ることのない変化が建築にあると言及し、確かに普遍ではないと思うが、建築だけではなく、この世の中に存在するもの全てがそうであるとも感じる。普遍であるように見えて角度を変えてみることで実際は変化し移ろう世界に私たちは存在し、その変化に気づけた人がこの世界の魅力に気づくのではないだろうか。

 

【優秀賞】『æ』



 建築は二面性を持つ相補性の存在である。建築は常に複数の事象が内在している。切妻屋根という歴史や環境によって作られた普遍的な形態に厚みをもった一つの軸線空間を引く。そのæの間、一体となった空間性に興味がある。また建築は”æ”のようにそれ単体では何の意味もなく、他の子音といったコンテクストがあることで意味を見出し、その先の存在へと思いを馳せることができるのではないか?


東「河本としてはartとengineerのカタチを作ったが、実際にはどっちも構造も効いてそうで効率的とも言えずデザインされている気がしている。」
河本「エンジニアリングの中にもデザインがあり、デザインの中にもエンジニアは存在していて、その間を作っってみたかった。」

東「両方の間にあるものと両方の間にあるものの間にある空間ってこと?」
河本「はい」
曾原「発音記号は国によって変わり、エンジニアやデザインも国によって変わるっていうことをどう思う?」
河本「その人によって発音記号に対する空間構成も変わってくると思う。」
2年「エンジニアリングの比重が大きい気がする。」
河本「もしかすると建築をちゃんと作ろうとすると自分の中では構築性が大事になっているのではないか?æという文字を建築に表そうとしたときにちゃんと構造を考えなければいけないのかなと考えたかもしれない。」
井筒「子音の方が言葉を構成する数が大きく、これだと限られた母音の”æ”の中でしか建築をしていないように感じる。この模型における子音は?」
河本「この模型に子音はなく、これをみた我々が思いを馳せ、想像力を働かせることで子音を生み出していく。」

 

 発音記号という変わった一文字が選出され、建築の二面性を記号で表していた。確かに建築においてエンジニアリングもデザインも切り離して考えることはできない。さらにエンジニアによって導き出されたデザインはデザインに合理性が生まれ、その合理性こそが受け入れられ、愛されて長く生き続けることができる建築なのではないかと考えた。

 


【佳作】『ケ』



 ハレとケのケを表していて、人は大通りの(模型の大通りにある複数の糸)ハレの部分に意識が行きがちであるが、多様な建物にかかっている上の糸を見るのが建築家の仕事だということを示した。


曾原「模型は都市っぽい。都市の考え方は?」
井筒「無国籍建築の反対派。都市の中の制約の中でいろいろなコンテクストを読み取りそこにある日常、ケにあたる部分を設計していく。」
2年「今の説明を効いていると建築家は部分を見ていればいいと聞こえるので行間を詳しくお願いします。」
井筒「前提として全体を考え、素晴らしい、美しいものを作るだけでなく、手に近いスケール感を大切にしていかなきゃいけないと考えている。全体をおろそかにしているわけではない。」
河本「それぞれの線が人の動線と電線に見えて日常生活では目を向けないようなところにも建築家は目を向けなければいけないのかなと模型を見て思った。」
川村「言葉を表す建築を作るっていう方が強い?」
井筒「はい」


 言葉選びがハイセンスな井筒くんの作品は詩が付属されており、スタディー形態はシンプルに言葉を表していた。途中質問で彼の建築観について言及されていたが、その場所の制約の中で読み取ったコンテクストを最大限に扱うことが建築の仕事であると感じた。

 

【総評】
 それぞれの建築観がお互いにわかった回であった。1回目のshu-maiであったためこの時は気づくことができなかったが、実際に原田研4年の8人の卒業制作のゼミにおいてもこの回のそれぞれの建築観がそれぞれ8人の根底にあることを日を追うごとにとても感じている。この一文字コンペがあったからこそお互いに建築に対する考え方の理解が深まり、改めてこのコンペの面白さを見出すことができた。

文責:SHU-MAI係 長谷川奈菜

 

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