Harada Masahiro Lab

原田真宏研究室ゼミ活動 「SYU-MAI」HP

第148回「群像」

2024年度 原田研究室「SHU-MAI文庫」

第1回『群像』が4/19に開催されました。

 

第1回フライヤー|デザイン, 出題 : 大池智美

課題文; 

私たちの身の回りは数多くのモノで溢れている。それらは目に留めることもないなんでもないモノのようで、1つの空間に集積すると強い意志を持っているように感じられる。私たちは建築を通して、そういったメッセージをどのように盛り込むべきだろうか。

補足文1; 

リビングの吹き抜けや螺旋階段、日差しを取り込む大きな開口部。日常の光景を描く様々なエレメントは、一つの大きな建築となって立ち現れる。そこで繰り広げられる、建築の群像劇とは。

補足文2; 

群像とは多くの異なる要素が集まって一つの光景を形成するという意味である。それぞれ異なる個性や特徴を持った人物や物事が集合することにより、集団的意志を表現したり、独自の雰囲気や魅力を生み出す様子を表す。複数の登場人物によって物語が進行していく群像劇では、それぞれが独立しているように見えるが、全体を通して見ると一つのまとまりを持ったストーリーとして描かれる。この手法を用いて建築を考えてみたい。私たちの生活を構成する様々なエレメントを登場人物と捉え、建築という名のストーリーを展開する。多角的な視点から空間を思考することは新たな創造性を育むだろう。

 

※ SHU-MAI文庫についての概要と要項は下記の「SHU-MAI文庫」を参照ください。

 

目次

 

***

SHU-MAI文庫 第1回『群像』

今回は大池智美による『群像』についての出題でした。さまざまな要素が集まって構成される建築の、「部分と全体」という半永久的テーマに対し、そこに建築家としてどういった試みを行なっていくべきかを『群像』という題で投げかける、という非常にラディカルなテーマです。

そして、より対話を広げていくべき行なった外部参加者の容認ですが、精力的な学部2年生2人が参加してくれたことで、より議論は引き締まりました。これは2年前の原田研究室SHU-MAI「SHU-MAI展」にて、今年原田研究室生となった末松拓海と半田洋久が学部2年時に2人で参加させていただいたエピソードと重なるもので、私たちとしても非常に感慨深いものです。

 

参照; 

131回「コンペをコンペする」 - Harada Masahiro Lab

第1回参加者

原田研究室生
  • 大池智美
  • 細田雅人(SHU-MAI係)
  • 末松拓海(ゼミ長)
  • 田川歩知
  • 廣澤陸
  • 半田洋久(SHU-MAI係)
  • 栗林亜佐子
  • 森日菜子
  • 鈴木創
外部参加者

 

各参加者成果物

賞一覧

※ 議論の焦点をより明確にするために、部分的にコンペ形式を導入しました。

・SHU-MAI賞 1点

・出題者賞 1点

・議論賞 1点

 

1. 栗林案「エレメントによる群像景の分析 NDSM Treehouse」

栗林案|撮影 : 半田洋久

選定図書
タイトル; ふるまいの連鎖:エレメントの軌跡
著者; 門脇耕三

要旨; 
ただ同じものの反復ではなく、バラバラなものでもない群像。建築における群像たらしめているのは何かを導き出すために、群像景として強く印象深かったアムステルダムのNDSM Treehouseを分析した。

出題者によるフィードバック; 
寸法、土地、色の連続性など自身が訪れた場所の分析を行い、共通点や特性を見出していた。一見すると異なる要素の集合体のようでどこかまとまりを成しているという群像の例を具体的に分かりやすく説明していた。

 

2. 北川案「桜の掛かる道」

北川案|撮影 : 半田洋久

選定図書
タイトル; こっそりごっそりまちをかえよう。
著者; 三浦丈典

要旨; 
かつて街は感覚によって創られていた。論理される街は、今よりほんの少し寛容になるだけで、それだけで見える景色は変わるかもしれない。はみ出すことが許される世界でありふれた「道」に名前をつけよう。

出題者によるフィードバック; 
まちなかの日常的な風景の中に群像を見出し、自身が思い描く理想の情景を模型で表現していた。小道にはみ出た樹木を見上げるように、少しの豊かさの積み重ねが私たちの日常を彩るのかもしれない。

3. 田川「四畳半の断片」

田川案|撮影 : 半田洋久

選定図書
タイトル; 小さな矢印の群れ
著者; 小嶋一浩

要旨; 
『群像』とは単なるモノの寄せ集めではなく、「出来事」が群を成し、時空間を像として想起させるものであると考えた。自室をサンプリングし、無垢な建築図面と「出来事」の集積で顕れた現在の空間のドローイングを行った。

出題者によるフィードバック; 
自身が日々生活することによって出来上がっていった四畳半の自室を群像と捉え、9コマのドローイングによって巧みに表現していた。

4. 本郷案「Nature of TOKYO」

本郷案|撮影 : 半田洋久

選定図書
タイトル; TOKYO 一坪遺産
著者; 坂口恭平

要旨; 
社会に埋め尽くされた窮屈な東京の中で大きな豊かさを持った場所、そんな場所が未だ東京の隙間に点在している。社会に染まるほど見えなくなる彼らの存在は、自分の手の届く範囲で建築し、東京で自然に生きている。

出題者によるフィードバック; 
本の中から狭くても豊かな空間を見つけ出し、そのような小さな出来事が集まった都市を抽象的に表現していた。粘土の凹凸を都会のビル群にみたてるという斬新な方法で、最も多くの議論を寄せた作品であった。

(議論賞受賞作品)

5. 森案「作る、或いは生まれた」

森案|撮影 : 半田洋久

選定図書
タイトル; 可能性の文学
著者; 織田作之助

要旨; 
織田は定跡化しつつあった日本の近代小説を変えるべく「虚構の群像が描き出すロマンを人間の可能性の場にする」ことを指針に示した。では建築なら。空間は複数の行動を誘発させ、関係性や感情の群像が見えてきた。

出題者によるフィードバック; 
群像劇という言葉をヒントに、著書の中の「虚構の群像が描き出すロマンを人間の可能性の場」として自身が理想とする場を表現していた。視点の角度によって様々なシーンが展開される模型は観察者の多様な捉え方を許容していた。

6. 大池案「多様性が描く群像住宅の提案」

大池案|撮影 : 半田洋久

選定図書
タイトル; 建築の多様性と対立性
著者; R・ヴェンチューリ

要旨; 
私は建築の「内」に存在する多様さの集積こそが建築の群像がであると考え、「建築の多様性と対立性亅という本を選出した。成果物としてヴェンチューリが言及する10個の視点を元に、一戸建ての住宅の設計を行った。

出題者によるフィードバック; 
出題者につき無し

7. 廣澤案「個々の群像系」

廣澤案|撮影 : 半田洋久

選定図書
タイトル;  ミルクとはちみつ
著者; ルピ・クーア

要旨; 
オブジェクトに対して個人的な思い入れをかき出し、分析することで見ている景色は同じでもそこには人それぞれ違った景色が思い描かれる。この最も個人的なイメージを設計に利用することはできないかという試みである。

出題者によるフィードバック; 
自室をテーマに身の回りの風景を分析するという点で田川案との共通点が見られた。モノに対するイメージを書き出すことで客観的な視点で空間を見つめ直すという手法は、リノベーションなどで応用できそうだと感じた。

8. 末松案「群像分子遊び」

末松案|撮影 : 半田洋久

選定図書
タイトル; 世界で一番美しい分子図鑑
著者; セオドア・グレイ

要旨; 
住人は内外の境界のないグリットの中で空間を繋げてゆく。それはまるで原子が電子を共有し、分子を生み出すようである。空間は意思を持ち、安定状態を目指して胎動し始める。

出題者によるフィードバック; 
最小限の生活領域を設定し、そこから場が拡張していくことで群像となるという、面白い設計案であった。分子を建築に応用するという着眼点がとても斬新であり、群像の可能性を見出してくれていた。

(出題者賞受賞作品)

9. 半田案「箱庭の製図室」

半田案|撮影 : 半田洋久

選定図書
タイトル; トポスの知 [箱庭療法の世界]
著者; 河合隼雄 , 中村雄二郎

要旨; 
共用製図室に新設する什器のスタディ方法の提案である。箱庭で繰り広げられる"群像劇"が、場所が患った病と人が患った病についてプレイセラピーを通し、現在の関係性をささやかに再構築するデザインを企てている。

出題者によるフィードバック; 
箱庭の中に群像を写し出すことで関係性のスタディを行うという発想には驚きであった。群像を俯瞰して観察することは、新たな発見や関係性の構築に有用であるように感じられた。

10. 鈴木案「群像と、その投影」

鈴木案|撮影 : 半田洋久

選定図書
タイトル; TOKYO STYLE
著者; 都築 響一

要旨;
モノの群像は、建築竣工後時間をかけて使い手によって醸成される。群像と同じような心象を何か別の事柄でつくり出すことができないか試行した作品である。能舞台の様式はそのままに、群像を用いた共同幻想を体験する劇場としての住宅の構想した。

出題者によるフィードバック; 
能楽と群像の間に共通項を見出すとは鋭い視点であった。人間像や生い立ちといった背後に写し出されたものも含めて群像とする捉え方に共感した。

11. 細田案「等価と俯瞰」

細田案|撮影 : 半田洋久

選定図書
タイトル; 日本画と日本建築の時空
著者; 山﨑宏

要旨; 
洛中洛外図屏風に感じる群像は、等価するモノと俯瞰のイメージが要因であった。モノとイメージの関係に注目し、建築を群像として知覚する試みを表現した。

出題者によるフィードバック; 
モノを等価に扱うことで俯瞰のイメージを作り出す日本画に着想を得た点や、空間をボードゲームに準えて駒のように家具を置くという発想は秀逸であった。

(SHU-MAI賞受賞作品)

発表と質疑の様子

全体の風景

第1回テーマ

発表の風景



提案が一同に会す|撮影; 細田雅人, 半田洋久

出題者総評

第1回SHU-MAIでは、「群像」について思考してもらった。群像とは多くの異なる要素が集まって一つの光景を形成するという意味を指すが、その要素の捉え方において多様な意見が見られた。

自分が生活していくことで出来上がった風景を群像と捉えドローイングや写真として視覚化した案や、ビル群が集まった都市を抽象的に模型で表現していた案など、個々人によって群像と捉えるもののスケールが異なっていた。

初回ということで、テーマに対する切り口の難しさやどのように成果物として提出するのかといった懸念点もあったが、出題者の予想以上に熱い議論を交わすことができた。次回以降も各テーマに対して様々な議論を呼ぶ提案が集まることを期待している。

文章 : 大池智美

次回のテーマ

第2回テーマ : 『嘘』

 

第2回フライヤー|デザイン, 出題 : 細田雅人
課題文; 

偽物は、建築教育においてタブーのように扱われているが、実際の街にある建売住宅のほとんどは、コンクリートやレンガを模したサイディング、木目をつけた樹脂素材など、嘘にまみれている。このような現状について、建築学的に議論したい。

補足文1; 

外装に限らず、コンクリート打ち放し風のクロスや人工大理石、木目シールなど内装や家具にも嘘は大量生産されている。経済的な理由だけを考えれば、わざわざ何かを模したデザインである必要はないだろう。

建築の嘘は素材を欺くことだけではない。映画や舞台のセットや、看板建築など、存在や形態そのものを欺く場合もある。

映画トゥルーマン・ショーは、主人公の住む世界が全て偽りであり、主人公のトゥルーマンは真実を知らないまま大人になってしまった。ビルはハリボテで、空は書割、天気すらも人為的に操作されている。私たちの世界に話を戻す。目の前にある机の天板は本当に木材なのか、目の前にある壁は本当にレンガなのか、開いたことのないドアの先には本当に部屋が存在するのか。建築と嘘について考えてください。

 

詳細

|日程・・・・4/26 (金)
|時間・・・・18:00~21:00 (予定)
|場所・・・・豊洲キャンパス 本部棟9階 ラウンジ
|成果物・・・選書1冊, 任意の表現物
|参加資格・・芝浦工業大学の学生であること
|展示場所・・豊洲キャンパス 本部棟9階 原田研究室ブース 可動棚(画像参照)

内部展開催場所
注意事項

※ SHU-MAI文庫の要項については「SHU-MAI文庫解説」をご覧ください。
※ SHU-MAIはどなたもご自由に見学いただけます。所定の時間と場所にて、メンバーにお声がけください。
※ 詳しくは、展示場所にもなっている原田研究室ブースの可動棚に置かれたフライヤーをご覧ください。どなたもご自由にお取りいただけます。
※ 不明点がありましたら、原田研究室InstagramのDM、または原田研究室生B4に直接ご連絡ください。

 

皆様の参加と積極的な議論と表現をメンバー一同お待ちしております。

 

原田研究室 Instagramhttps://www.instagram.com/harada.lab/

 

外部展 詳細

前期の通り、芝浦生でなくてもご覧になることができるSHU-MAI外部展を行います。
展示の内容や詳細、フライヤー等は少々お待ちください。

展示期間内は「SHU-MAI文庫」メンバーが在廊し、イベントなども計画しております。

|会期・・・7/2 (火) ~ 7/4 (木)
|時間・・・9:00 ~ 17:00
|場所・・・芝浦工業大学 豊洲キャンパス 有元史郎記念交流プラザ
|入場料・・無料

 

執筆 : 半田洋久