Harada Masahiro Lab

原田真宏研究室ゼミ活動 「SYU-MAI」HP

第69回 「短歌」

テーマ 「短歌」


一等:深山亜耶、石本遊大、森野航平
講評:森野航平




 今回のテーマは短歌となりました。決められたテーマに沿って空間を表す模型を持ち寄って発表することが慣例ですが、今回はそれプラス、模型に関係する短歌を一句むこととなりました。


 短歌というと小倉百人一首を思い浮かべ、格調高いものというイメージになりがちですが、現在の短歌はもっと自由になっています。57577さえ守っていれば何でも許容されている感さえあります。
例えば、


「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日
(俵万智、サラダ記念日 )


 非常に有名な現代短歌です。
 短歌についてはあまり明るくないのでこの辺りで話を畳みたいと思いますが、何はともあれ短歌のどの要素を抽出して空間化できるかがカギを握ります。




 一番多かったのは、57577、という制限、ルール、縛りに焦点を当てたもの。
他に、返し歌、掛詞、枕詞、短冊などがありました。短歌に関してはキーワードがたくさんありますので、比較的やりやすかったのでは、と感じました。






深山亜耶





 まず最初、これは短歌の構成に注目した模型です。57577全31文字を筆頭に、枕詞、掛詞、などの様々な修辞技法がありますが、平文の何気ない文章がこのような技法を使うことで豊かな表現となり、与える印象ががらりと変わる、ということに着目しています。キューブは単語、一節を表し、透明なキューブを下部に挿入させることでレベルの変化が生じています。これが技法に相当すると物だと思いますが、何かリズムのようなものが生まれており、中を通る人はキューブに入るたびに意識が変わるような気がします。
 歩くたびに床のレベルが変わっている、という建築も面白そうだと思いました。


【少しずつ上ってゆくと変わりゆく 広き世界が見えたかな】






 似たようなテーマで別のアプローチをしたものが私の作品です。
こちらは短歌における57577という字数制限からインスピレーションを受けて作りました。




森野航平







 字数制限があらからこそ、短い文に伝えたい要素を工夫を凝らし凝縮して多くの美しい詩が出来たのではないかと考えました。この制限、というものは法規という形をとって建築にも常に付きまといます。もし仮に、制限を受けることでより輝くような建物ができるとしたらそれはどのようなものだろう、という想像してみました。


 この模型は「水」に制限を与えて立体化したものです。重力に素直に従う水をもし操れたら、面白い空間ができるのでは、と思いました。票は入りましたが、マテリアルの面白さが優先されてしまい、空間的には大したものではないので、もう少しうまく料理できたのではないか、と後悔しています。


【どこまでも自由気ままな水を見て 私はこれを編んでみたい】






 最後に、近代以前に読まれた詩に用いられる、「枕詞」からヒントを得た作品を紹介します。


石本遊大







 例えば、「あしびきの」は「山」に係りますし、「たらちねの」ときたらこれは「母」に係ります。このような一対一の関係が窓の内と外の部分に似ているのではないか、と考えています。枕詞のように、一つが決まるともう一方も決まってしまい、中庸性が無いという点を、実はそここそが面白さを秘めているのではないか、として、窓の冊子の部分を拡大して作られたものが上図の模型になります。


 誰も気にしない部分を取り出し、そこに開口をあけたりして操作しているところが面白いと感じました。外でも内でもない部分ではどのような活動が行われるのか、興味があります。ちなみに、二枚の板がねじれているのは作りが悪いからであり特段意味はないそうです。


【シューマイで空間づくりに明け暮れて 没案だけが積みあがる】






 まんべんなく票が割れたため、一等が3人も出ることとなりましたが、今回も生産的な活度が出来たと思います。
 折角なので、短歌の講評をしますと、やはり女性のセンスには目を見張るものがあります。詩的で柔らかく品がありました。
 男性陣については、まぁ...コメントは控えさせていただきますが、実はこの短い文に凝縮して意図を伝える、という行為は自分の作品を他人に伝える上で非常に重要なスキルになるのではないかと私は思っています。長文というだけで読む気が無くなりますし、驚くべきシンプルさを持つ短歌から学ぶことは多いのではないでしょうか。


 最後に、個人的に一番良かったと思う短歌を一つ挙げて失礼させていただきます。


福山ふみの作
【見渡せば多種の色をば濃き混ぜて 今も昔もいと美しくあり】 




次回のテーマは「鉄などのさび」です。




参加者:石本、須山、須永、深山、福山、田中、加藤、森野、小川