Harada Masahiro Lab

原田真宏研究室ゼミ活動 「SYU-MAI」HP

第103回 「時間」

今回のテーマ「時間」

 

一等:藤澤睦

講評:平井悠大

 

本年度、第5回目。今回は、日程的に厳しい中での開催ということで、即日的に時間の制限を設けて模型製作を行いました。 

 

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 近代社会における典型として、「時間」はひとつの尺度として扱われ、座標軸となります。しかし、それは明確で即物的なx,y,zとは異なる不思議な存在です。

 時間には情緒性があり、空間性があり、そしてやはり私達の規範となるグリッドでもあります。私達は時間に縛られて日々を過ごし、時間を忘れて眼前のことに没頭し、時間を超えて思いを馳せます、、。

 もし、時間に即物性をもたらした時計が存在しなかったならば、我々にとって時間とは徹頭徹尾エモーショナルなものであり続けたのかもしれません。

 

 今回の一等は、1000年単位で建築を考えることをテーマとした藤澤さんです。

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 3層のスラブは時間経過を表し、苔むし、やがて語り継がれるような廃墟へと移行してゆきます。吹き抜けに立つ一本の木が、時間の流れのメタファーとしてスラブ間をつなぎます。

 そうした長いスパンにおける建築を考えることが、これからは必要なのではないのか、と、建築家が考える一方、外皮としての建築は典型的なビルディングそのもので、人々にその悩みは伝わりません。一般の人々に伝わらない建築、そこに藤沢さんはもどかしさを感じると訴えます。

 哲学や建築家の議論の分かりにくさに対する批判と、一方で分かり易いもので溢れることへの是非など話が膨らみました。シンプルだけど奥が深いということが一つの理想として挙がります。

 

 他の作品として

柴田さん:時の支配性から、「重力」という不可避の力学空間を想起し、その不可逆性や、相対性からくる多様さを、複数の抜け穴を有した落下空間として表現しました。

平井:時、時制における「今」の特殊性に着目し、建築物における人々のふるまいが「今」性をもつパーツを採集した上で、そこに同時に現れるモノとしての瞬間性を取り上げました。

 

次回のテーマは「切羽詰まってる」です。

 

参加者:藤沢、柴田、平井

 

 

 

第102回 「アイドル」

今回のテーマ「アイドル」

 

一等:平井悠大

講評:平井悠大

 

 2018年度、第4回目。キラキラと輝くアイドル、人々の憧れの象徴です。”憧れ”は若さと親和性の高い感情であり、なにかに憧れ、そして失望することが成長の一つのプロセスとなります。

 現実的に捉えた時、アイドルという職業は人々に憧れを抱かれ続けなければならないという宿命を抱えた存在です。人であるアイドルが象徴としてあり続ける、そこにある矛盾が一つのドラマであり、それを、それとして楽しむことが暗黙の了解であったりもします。

 

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 今回の作品にはヒトとしてのアイドルをとらえた、輝いてばかりいられない彼女(彼)達の姿が多く見られました。手の届きそうで届かない迷宮のようなアイドル像の瀬川くん。アイドルとファン相互の認識のすれ違いを描いた藤沢さん、アイドルのキャリアを立体として多視点から図式化した味村くん。

 憧れだけのアイドル像に私達はなんの新しさも感じません。スパイスの効いたエスニック料理を嗜むような、アイドル文化の爛熟を感じさせます。

 

一等は原点としてのアイドル像を想起した平井の作品です。

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 y=ax^2で表される放物線は、パラボラとしての性質を持ち、そこに投射された平行波を焦点に集めるという性格をもつ幾何学です。4つの黄金に輝く放物壁面に投射された光は中心軸を貫く焦点へと集約されます。

 人々の憧れを集め、輝く彼女達。

 そもそものidolとは崇拝を集める象徴としての存在を指していました。憧れが高次に至ると、y=ax^2のaが増加し、強い傾きをもった壁面はそこに十字を描きだします。aの増加は同時ににy=a/2で指定される焦点との距離を生じさせ、彼方の存在への憧れとしての崇拝が人々に抱かれるのです。

 身近なアイドルから、神としてのアイドル。”アイドル”の奥深さを感じます。

 

次回のテーマは「時間」です。

 

参加者:平井、瀬川、藤沢、味村

第101回 「病気」

今回のテーマ「病気」

 

一等:藤澤睦

講評:平井悠大

 

 2018年度、第三回目。「病気」、ネガティブなイメージが付きまといますが、私たちが生きてゆく上で避けては通れない様態の一つでもあります。理性主義的な思想の元、歴史上「病気」という”異常”を克服しようと私たちは数々の努力を重ねてきました。

 一方で、現代において「病気」は精神病が病気の一つとして捉えられ、治療の対象へと変化したため、かつてほど「病気」の定義を明確に語ることは難しくなりました。そのことは「病気」の対極である「健康」であるということの意味に、いままで存在しなかった疑問を生じさせています。そもそも「健康」が自明であるという以上に語りようがなく、「否病気」とでも言わなければ指し示すことができない不確かなものだと気づいたのでしょう。

今回、そうした流れの中で病気を逆転的にポジティブに捉えた作品が多く見られました。

 

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 今回、一等は藤澤さんの作品です。

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病気には多くの種類と、そのプロセスがあります。アーチで表現される個々の病は、高さがその辛さを、スパンがその期間を、幅がその希少性を表しています。透明な病はまだ治療法の見つかっていないものです。病を経験するということは一度アーチの頂上を通過することです。そこからは平坦な地平を歩く、健康な者にはない視点で人生を捉えることができます。

単純なアーチ型でありながら、モノに必然的に立ち現れる座標軸それぞれにきちんと意味合いを与えた事で、「病気」の多様さがプレゼンテーションされ高く評価されました。

 

その他の作品の紹介です。

 

 洪さんの作品(奥右から二番目)病者と健康者の境界を透明なフィルムとして表現し、病から脱し快復した時の開放感を表現しました。膜がはらみ、今にもさけるような動きが感じられます。 

 江利川くんの作品(奥左から二番目)「病気」をたんなる病とだけではなく、熱中しているなど常軌をいっした心理状態をも「病的」の状態と捉え、そうではない人とで認識される空間が異なることを表現しました。粗に散らされた柱が、病者の視点ではきちんと壁として分節されているということが影として表現され、両者の建築体験を一つの構築体で成立させました。 

柴田さんの作品(手前中央)クモの巣状に粘液が伝う道。そこを通過することで人々はだんだんと病を背負い込むようになります。途中には重い病気としての池があり、そこを避けられるかどうかが生死の境となるのです。また、道と直行する方向では先天的な病気と、後天的な病気が粘液のまとわりついた壁で分断されています。そこにあるのは偏見です。同じ病者であってもわかり合えないことが表されます。今回最も病気のネガティブなイメージを表現していると共に、その多元性が評価されました。 

 林君の作品(手前右)ウィルスの存在様態から取り組んだ作品。細胞に寄生するウィルスを、建築を侵食する植物に捉え、腐食し、崩壊した建築をジオラマのようにリアルに表現しました。そこにある廃墟に我々はどこか懐かしさを感じまてしまいます。その様に、建築がスクラップアンドビルドされてしまう事への批判を込めました。

 平井の作品(左端)病を健康に回復するためのプロセスと捉え、健康者は階段を真っ直ぐ登ってゆきますが、病気にかかってしまう人はそれができません。脇のスロープを登ってゆくことになります。その過程が寄り道として人生経験を豊かにすることを表現しました。

 

次回のテーマは「アイドル」です。

 

参加者:洪、藤澤、柴田、林、平井  特別参加:江利川

第100回 「水中」

今回のテーマ「水中」

一等:加藤陽光、柴田敏樹
講評:平井悠大

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 2018年度第二回目のシューマイを行いました。テーマは「水中」、前回「宇宙」に続く極限環境を想起させます。

 

 プカプカ浮かんだり、サンゴ礁であったり、レジャーとしての水中の印象からくるポジティブな作品が傾向としてはじめ想起されましたが、集まったほぼ全ての作品が共通して水に恐れを抱いていることに驚かされました。

水分子を想像した藤澤さん、粒子の集合体としての”いずい”(東北の方言で「気持ち悪い」)液体のイメージ。水中での動きの抵抗から、非合理的な空間、その集合を考えた瀬川くん。味村くんは壁の高さの変化、そして配置で人々を深く、深く水中へ誘う空間を表現し、死へと繋がるというストーリーを作ります。

 

 一等、加藤さんの作品

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 水への恐れを最も純粋かつセンセーショナルに表現したものです。

 首に絡みつく糸は水を表しています。呼吸困難をもたらす水。しかし生命にとっては欠かすことのできないものです。吊られた彼はその糸を断ち切ったとしても、底へと沈み、死が確定します。救われる道は唯一つ、明るい空へ繋がる糸への、猛烈な足掻きです。振り切った表現は、私たちに水中での価値観を転換させます。

 もうひとつ、この作品の面白さに、シンプルであるからこその様々な読み合いが私たちの間で行われた事がありました。「水」はそのまま「お金」と読み替えることが可能であることや、模型を倒したときに、糸の自由挙動と相まって、新たな水との関係のストーリー空間が生み出されました。そこにみられる概念の可塑性は、水の可塑性とメタに類似します。

 

 同、一位の柴田さんの作品。

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 柴田さんは水空間における移動という視点から2作品プレゼンしてくれました。特に皆の注目を集めたこちらの作品。積層するアクリル板からなり、その氷のような透明度と、切断面の反射がキラキラ美しく輝きます。

 「水中」での移動を考えた時、それは歩行によるものではありません。建築が歩行に支配されない時、ひとつの大きなリミッターが外され、空間は飛躍的に自由になります。建築がフラットな平面としての床を必要としなくなるのです。模型においてそのことは、反射した像との間に描く有機的な空隙に人が浮かぶように表されます。

「人が空を飛べたら、また違った空間があったかもしれない」

日常の範疇を飛躍した建築の空想、その可能性は遥かに広がっています。

 

 次回のテーマは「病気」です。

 

 参加者:藤澤、瀬川、味村、柴田、平井 特別参加:加藤

第99回 「宇宙」

今回のテーマ「宇宙」

一等:藤澤睦
講評:平井悠大

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2018年度第一回シューマイを行いました。テーマである「宇宙」は「地球外環境」としてだけではなく、世界認識のシステムとしての「コスモロジー」と捉えることができます。

今回の作品は3つの系統に分類することができます。
1、マクロな、あるいは潜在・普遍的な構造形態から作品へ取り組んだもの
  木村、内田、平井、味村
2、次元といった根源的な空間認識の仕方から作品へ取り組んだもの
  酒井、藤澤、堀場、梅本、洪
3、「わたし」と「せかい」の関係を考察し、作品へ取り組んだもの
  堀場、柴田、林

それぞれのタイプの傾向として
1:世界を形作るシステムを卑近な空間造形のシステムへと変化させる、スケール変換や記号化の面白さ
2:この世界の表れ方に疑問を呈し、現在認識しているものとは異なる世界観が存在することを立体物として提示した
3:私と世界の関係性を従来のXYZ座標空間から拡張し、私を中心とする極座標的空間等が他者の視点を通した時に宇宙的に映る事が描かれています。宇宙と私のコミュニケーションを考えたとも言えるでしょう。


今回の一等はホログラム理論をもとに作品を作った藤澤さんです

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我々の認識する三次元空間は実は二次元である世界のホログラムに過ぎない。藤澤さんの作品は反射するプラスチック面に、外周を覆う立方体が映し出され増幅します。朧気な虚像の姿は荒唐無稽にも思える理論を体験させ、私たちを驚かせました。高度に専門的な問題のプレゼンテーションが明快かつ魔術的で白眉でした。

次回のテーマは「水中」です

参加者:木村、平井、藤澤、洪、味村、柴田、林  特別参加:堀場、梅本、酒井、内田

第98回 「コンクリート」

今回のテーマ「コンクリート
一等:小泉菜摘
講評:小泉菜摘


 今年度最後のシューマイ、テーマは「コンクリート」です。「コンクリート」はセメント、水、細骨材、粗骨材からなります。これらの材料の割合を決定することを調合といい、この調合が「コンクリート」の性質を変化させます。
 コンクリートのイメージとして、冷たさや人工的、無機質などのワードが出てきました。そこに着目した案もありました。また流動体であった生コンが、型枠に入れられ固まってしまうことに死を感じるといった案もありました。



今回の一等、小泉の案



 「コンクリート」は骨材などの形や大きさの違う要素が一つにあつまって壁や床などを構成しています。また、その中には見た目からは想像できませんが水分が含まれています。透明のブロックのそれぞれは、壁や床といった、建物の構成要素を表しており、その中には水分を含んだポリマーが入っています。このボックスが、空間の構成要素になるように模型を作りました。
 コンクリートは木材などと違って無表情な素材です。そこに表情を与える方法の一つとして、光の入れ方があると思いました。窓やスリッドによって光をいれることでコンクリートの無機質な空間は温かみや美しさを得ます。このコンクリートと光の関係を表すためにも、光を透過したり反射することでキラキラと輝くポリマーをボックスの中に入れました。
 このように「コンクリート」の素材と光による空間の質について考え、模型にしました。


参加者:池田、安藤、三浦、岡本、小泉、堀場



 今まで何気なく使っている言葉やモノの本質を見つめること。そしてそれを空間にすること。
 半期を通して様々なテーマにそって空間を作ってきました。一つのテーマでも異なった考え方があり、それらについて議論することでより考えを深めていきました。このプロセスは、今後設計する上での基礎やヒントになるかもしれません。各々がなんらかのかたちで成果を得られたのではないでしょうか。


 2017年度のシューマイは以上になります。



17’HARADA Lab Members:堀場、安藤、池田、岡本、小泉、小池、児玉、杉山、中原、三浦