令和五年度原田真宏研究室B4によるSHU-MAI第2回目を迎える。
今回のテーマは「感染」である。
【飯泉案】
「環境感染」
人は生まれてから様々な環境に身を置き、
無意識のうちに目に見えない「要素」を取り込む。
様々な時と場所で取り込んだ要素同士が体内で計り知れない反応を起こしながら増殖を進め、渦を巻く。
時には明るく、時には暗く。
要素同士の反応が新たな色を生む。
人が自由意志と呼ぶ感情や思考は
ミクロレベルではその時点までに環境から取り込んだ「要素」の混ぜ合わせに過ぎないのではないか。
【井浦案】
「感染」
感染とは生物の体内や表面に、より体積の小さい微生物などの病原体が特定の侵入経路を経て寄生し、増殖するようになることやその過程を指す。寄生した病原体は1、2、4、8、16、32…と指数関数的にその数を増やしていく。人間は常日頃から光、風、雨などといった環境因子の影響に晒されている。特に光は粒子の集まりでもあり、たった一粒の粒子が空間に厚みをもたらす。人間が光の小さな粒子の集まりに感染するとき、それを囲う空間もまた光に感染する。
【鈴木案】
「手形アート」
今日は、大人数でアートをつくるイベントにやって来た。 コロナも収束し始め、大きなイベントが再開しだした。 今回アートのお題は「感染」。 1人1回自分の手形を紙に押し付けて、みんなでひとつの作品をつくりあげる。 作成にはルールがあり、1人ずつ部屋に入って手形を押すこと。 部屋に入る前はなぜルールがあるのか分からなかったが、 部屋を出るときにその理由を理解した。 コロナは本当に収束しているのか不安になってしまった。
【服部案】
「見えない存在」
ウイルスは人間の目に見えないが、人間の体に症状が出た時に存在を発見されてしまう。我々には見えていない存在が地球上にはたくさんあるかもしれないが、我々はその存在の存在を認識してない。しかしそれは存在しているかもしれないのだ。
【中西案】「価値観」
人と会話をする。それだけでお互いの価値観が多少なりとも干渉する。人との会話は、まさに価値観が感染していく過程なのではないか。人から言葉を受け取ったとき、あなたは次にどのように考えますか。私は、相手から受け取った言葉を「観点」として他の物を考えるようになる。会話の相手との架け橋を上って、その場所から世界を考えてみる。その時点で人との会話で受け取った言葉が自分の一つの価値観になってしまっているんだ。
【松野案】
「流行」
感染における 被害者:人/加害者:ウイルス/運搬者:空気 の関係性を建築で置き換えた、主構造に合板や壁紙に加え、装飾や家具を上書きし、主構造を隠蔽し虚ろ化させた空間について。被:主構造/加:仕上げ/運:設計者、さらに設計者が無症状・無自覚に行うだけでなく、その空間の虚ろの心地を妄信し、複製を試みようとなるとそれはもうウイルスそのものである。この流行は仮想を加速させるも、突如現れる衝撃にまた打ち砕かれる。
【江口案】
「トラウマ病原体」
感染とは病原体が人に侵入し増殖する状態である。
人は活動の中で目に見えない病原体を気付かない内に侵入させてしまう。侵入した病原体は独自のエネルギーで増殖し人に悪影響を及ぼす。
人生の中で不意に現れる悪い記憶が人に悪影響を及ぼすプロセスはどこか感染に近いのではないか。トラウマが侵入し、独自のエネルギーを持って増殖するのは人がどんな空間にいる時か。人がトラウマに空間感染するプロセスを表現する。
【町田案】「不離一体」
今、この時代に「感染」と言われた時、多くの人々には「ネガティブ」なイメージがあるのではないだろうか。近年のパンデミックによって、「感染」は「陽性」と密接な関係になった。この「陽性」は、英訳すると『positive』である。つまり、「ネガティブ」なイメージのある『positive』なのである。
「感染」は、パンデミックの社会によって生まれた、
二項対立が同時に存在する、唯一無二な言葉なのではないか。
そこで、負のオーラに包まれた中にある、正の物体によって空間を表現した。
【総評】
今回は前回よりもカタチの表現力を鍛えるべく、提出時に文章を隠すことで、作者はカタチがどう届けられるのか、受け手はカタチがどう生まれたのかを互いに想像しながら、カタチからあてる言葉/あてられた言葉を探る実験的な回であった。
今回のテーマ「感染」を、社会現象、言葉のイメージ、見えない存在、原理などから各々捉えカタチにしていった。そしてその作者の捉え方を他者がカタチから解釈をすることを通して、作者と受け手の関係について考えた。必ずしも解釈の一致を目指すというより、解釈の相違点から何が見えるのかを考えるものだった。
鈴木案は作者と受け手の解釈が一致した。それは受け手に謎解きのような体験をもたらす仕掛けと、テーマにちなんだあるメッセージを忍ばせる遊び心を持った物語性のあるわくわくするものだった。
井浦案は作者と受け手の解釈が近いようで遠いものだった。それはカタチが1つの強い意思の方向性を持たず、多様な解釈を内包する柔らかく全部を捉えきれないがために、今まで考えつかなかったものや、わかるようでわからないものがわかったのかもしれない。
服部案町田案は作者と受け手の解釈が異なった。どこに重心を置きカタチを見るかによって様々な見方ができる。それは時に真逆へも向かうことがあり、カタチの持つ両義性にも触れることができた。
仲間と議論を交えることで、自分の中にあったもの以上の解釈があることを知り、多様さに直面する。それを咀嚼し、自分の言葉やイメージで解釈し、体系化していき理解していく。また、合意がある方向で取れていると思いきや、誰かが新しい視点を捉えると次第に違う方へ向かったり、先ほどまでの方へ戻ったりする。その遊牧のような議論を経て見つかる新しい発見の繰り返しがSHUMAIの醍醐味のように感じる。
「違うから気になる、考える」を大切にしていきたい。
(文責:松野)
【次回:第139回】
SHUMAI 第3回
テーマ:「🥚 」
5/12 15:10~17:00 (出力など時間厳守)
《最終成果物》
タイトルのみ+ 200mm角の模型
《条件》
・人添景と鶏卵の殻(白色)を必ず用いること。
必要に応じて他の材料を加えて表現してください。着色は可とする。
・人添スケールは自由とする。
扱いは空間としてでも視点としてでもなんでも可とする。
・卵の殻を純粋なオブジェクト(このカーブ!とかこのテクスチャ!とか)として扱う。
ただし、卵の機能や背景、記号は度外視するものとする
・卵の殻は粉々にしようとどんだけ使おうと構わない。
ただし匂いには気をつけて✋黄身やとろみは取ろうね
・その使った卵の料理を共有すること!
《鍛える筋肉》
・卵の殻の形や物体を面白がる
・積み木をするように形を面白がる
・卵の殻と人添景の関係性を見てみる
・言葉は不要だ。形で喜びを共有しよう!
・卵料理マスターになろう
発表: 1人10分
(文責:松野、中西)