Harada Masahiro Lab

原田真宏研究室ゼミ活動 「SYU-MAI」HP

120回「めちゃくちゃ小さい」

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 令和二年度原田真宏研究室B4生による第一回SHU-MAI。通算で百二十回目となりました。新型コロナウイルス感染状況により初のオンラインでの開催となり,最初のテーマは「めちゃくちゃ小さい」。情報空間においてスケールを簡単に保留できる点から,その特性を生かした新しい建築,あるいは建築表現を考えました。

 

 ここでは「大きさ」とせずに「小ささ」の観点から建築を捉え直す,としています。ウイルスのような目に見えない極小のものが人々の生活を一変したように,小さなものが大きなものを変えるポテンシャルを秘めていること,その「小ささ」ゆえの可能性に着目しました。

 住まいの最小化に目指した増沢洵の「最小限住宅」, 設計単位の最小化を目論んだルシアン・クロールの100mmグリッドの概念,「小ささ/大きさ」の概念に揺さぶりをかけたチャールズ・イームズ,妻のレイ・イームズ夫妻による"Powers of Ten"などに目を配りつつ,現代における「小ささ」の概念に揺さぶりをかけるような案が期待されました。

 

 

最優秀に選ばれたのは小野案。

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(以下,出案者による説明)

「身体の解釈する『小さい』」日本語訳
そのものがそこにある気配がありつつも、接近して、眼球の焦点を合わせて初めて見ることができる状態。

そのものがそこにある気配→点対称のプラン。
接近して初めて見える→点光源を空間内に配置、ハーフミラーで間仕切り。
焦点を合わせる→ハーフミラーを波面状にする。

空間体験
ハーフミラーから離れているとき、体験者は光源の反射で、間仕切られた奥の空間を見ることができない。しかしハーフミラーに近づいたとき自分の落とす影によって奥の空間を見ることができる。ただし、ただ近づけばよいという訳ではなく、ハーフミラーが波面状ゆえに、特定の場所以外では反射によって見ることができない。
点対称の空間を不規則なハーフミラーが間仕切ることで、奥の隠された空間を予感させる。

 

「接近」によって「めちゃくちゃ小さい」開口が穿たれ、空間の拡がりを生むという秀逸な案。「距離」や「光」などの空間構成要素を扱った真摯な設計姿勢に評価が集まりました。

 

優秀案は二案。

酒井案

 

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(以下,出案者による説明)

「小さい」とは相対的なものである。
例えば自然界のカタチは、そのミクロな箇所を正確に拡大したものとマクロな視点での全体とに相似性がある。
それは両者に自然という同じモジュール、理やルールがある為である。

建築設計においても多用されるデジタル技術における長所とは、モノのカタチを弊害なく正確に保ちつつスケールそのものを拡大・縮小し検討できる点である。

例えばある巨大なランドスケープの景観を設計するにあたり、大地の起伏や植生など様々なものが類似しているであろう庭や公園など身近で素朴な地面を参考にできないだろうか。
ドラえもんのスモールライトを用いてジオラマの世界に入り観測するように、一人称視点のVR技術と伸縮自在な3Dモデルを合わせて用いることでそれが可能となる。
本来スケール上絶対にありえなかった空間に、自身を相対的にめちゃくちゃ小さくすることで入り込む。
そこにはきっとまだ見たこともない風景が広がっているであろう。

 

 画面共有によってモデリング空間を擬似体験できるオンラインならではの表現方法に可能性を感じられた酒井案。

 

 

 

山際案

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(以下,出案者による説明)

"オンラインの性質を踏まえてめちゃくちゃ小さいを空間化する"というお題に対し、物理的ではなく心理的にめちゃくちゃ小さいと思うときを考えてみた。

着想はSNSなどでしばし見かける叩きだ。あれは、心理的に人のことを「ちっちゃい人間だな」と感じてるのではないか?と思ったことがきっかけだ。

心理的に小さい人間だなと思う時というのは、人に対して許容力がないなと思う時で、つまりそれは視野を比較したときに自分より相手の方が狭いと思うと感じる時だと思う。

これを空間化してみた。
同じ物を見ているときに、物に近い円弧の中にいる人ほど物が部分的に見え、外側にいる人ほど物に対する視野が広くなっていく空間だ。外側にいる人は、内側にいる人との視野の差を明確に認知できる。

例えばこれが美術館で、対象物が大きな絵であるとき、1番内側にいる人2人が見えている絵を見ながら何か会話をしているとする。それを見た外側の層の人は、「まだこれからこういう(視野の差)部分も見えてくるのに、あの一部分だけで議論するなんて"ちっちゃいひとたちだな"」と感じるかもしれない。

 

 

心理的に感じる「小ささ」を物理空間に落とし込んだ山際案。物理的な小ささから出発しないアプローチに特色がありました。

 

 

◯総評

相対的で,特に情報空間においては不安定な「小ささ/大きさ」に対して,なにをもって「めちゃくちゃ小さい」とするかで案の特色が現れました。その尺度をあてがう操作が設計と呼べるのかもしれません。

 

出案者 : 海老原,小野,上岡,高木,滝本,酒井,波多,箭内,山際,石田(堀越研),藤田(郷田研)

文責 : 波多